CCoE 連載 Vol. 7 CCoEのこれまでとこれから(2)

CCoEを紐解いていく連載シリーズも終盤になってきました。

第7回目も、引き続きPwCの饒村(じょうむら)さんに解説いただきます。

 

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【Before CCoE】 => CCoE構築時に対処する課題

 

 PwCの饒村です。

 前回は、DXのためのクラウドの推進、クラウドトランスフォーメーションと海外におけるCCoEのベストプラクティスとして最も重要なことについて紹介と解説をさせて頂きました。クラウドの利活用を推進するにあたり、日本のあらゆる機関や企業が、多くの課題を抱えているというのが現状です。企業全体としてクラウドの利活用を推進するためには、こういった課題にたいして、個別部門で部分的に検討するのではなく、全体で取り組んでいく必要があります。

 

 そして、その検討すべき課題も多岐にわたる課題が想定されます。とくに、クラウド推進に想定される課題は、主に4点です。

 

①「戦略」の課題

・クラウドの利活用によるビジネス価値創出の具体的な指針を示すビジョンと戦略が描けていない

・ゆえに、部分的にしかクラウドの利活用がなされておらず、企業全体での取り組みに発展しない

 

②「組織」の課題

・部門横断での新しい取り組みが、組織の壁により進まず、コミュニケーションコストが増大している

・また、既存のプロセスと枠組みで、クラウドの利活用を進めており、クラウドの効果が得られていない

 

③「人材」の課題

・日本国内で、クラウドの利活用を含めたケイパビリティを有する「デジタル人材」は数十万人不足しており今後はさらに拡大する見通し

・デジタル人材の報酬は上昇傾向にあり、外部から調達するためには人事制度自体を見直す必要性も高まっている

・内部で育成するにも、従来型のIT人材とはケイパビリティが異なるため、デジタル人材として育成することも難しい

 

④「文化」の課題

・従来のセクショナリズムや、これまでの成功体験のイメージにひきづられ、クラウド活用に適した文化に変化できない、根付かない

・ゆえに、クラウドを推進していくためのモチベーションが向上せず、事業部門からの抵抗を受けて取り組み自体が進まない

 

これまでの連載でも数回に渡りお伝えしましたが、クラウドトランスフォーメーションとは、ビジネスの変革そのものです。

 

生みの苦しみ

 

「戦略」、「組織」は、経営者がその推進を行うCCoEにコミットをし、担当役員による強力な権限、予算の割り当て、そして企業の戦略とクラウドの戦略を合致させ、CCoEの活動を支援することの重要性を認識していなければなりません。

CCoEは、ビジネスの変革といった企業の戦略と目標を持続し発展することを推進するリーダーシップ、組織構造、プロセスから構成される企業の能力の一部であるため、経営者によるコミットと支援が必要になります。

 

「人材」、「文化」は、人事評価の仕組みと新しいチャレンジを支援する環境も重要です。

とくに、CCoEの形態として、バーチャルチームやクロスファンクショナルな組織横断で設置されるケースや、兼務者で構成されるケースが多いため、CCoEの活動が決してボランティアとならないように人事評価と連動させる仕組みの構築が必要です。

また、日本の企業ではジョブローテーションを採用しているところも多く、とくに政府機関や金融機関では、1年半から3年程度で人事異動がなされるのが一般的です。多様な視野や知識を身につけること、人的ネットワークの構築、同じ仕事を長くさせないことで不正を防止するなどの目的もありますが、逆に新しいチャレンジへの障壁となっているケースも見受けられます。

 

 現状、クラウドの利活用の推進は、新しいチャレンジであることが多く、たとえば異動を控えたような人は、新しいチャレンジに前向きになれない場合もあります。ですから、クラウドの利活用においては、リーンスタートアップをポリシーとした組織そのものもアジャイルであるような運営を行うなど、失敗が許されない環境ではなく、新しいチャレンジへのバックアップと小さく始めるための環境と組織運営の構築が有効であったりします。

 

 そういった新しいチャレンジへ取り組みやすい組織運営にすることで、人材のカルチャーやマインドを、新しいチャレンジにたいして「やらなければいけないこと」から「当たりまえ」に変えることができれば、クラウドの利活用も推進されるのではないでしょうか。また取り組みとして、コンソーシアムやユーザー会といった外部のコミュニティーを活用するのも有効で、とくにコミュニティーには、多様性があり、ポジティブなカルチャーやマインドをもった人が多くいるため、そこに参加した人材がそれを組織に持ちかえることで、ナレッジやケイパビリティの共有のみならず、カルチャーやマインドを醸成することができれば、組織にとっても、推進につながっていくと思います。

 

生まれたてのCCoE

 

 では、CCoEの設置形態、役員や外部SIerとのかかわり方、体制について、主に3つのパターンをみていきましょう。いずれかのパターンがより優れているというものではなく、組織のおかれている環境や状況にあわせて設置形態を検討しなくてはなりません。

 

 

①「独立型」

 異動と採用にて専任チームを組成します。

 経営のDXのビジョンの早期実現を図るために、ガバナンス、意識改革、ビジネスとアーキテクチャの設計を行い、組織に展開します。DX推進部門と協力し、クラウド化を推進します。デジタル人材が不足している日本においては、参考となる事例は非常に少なく、専任者の配置が課題となります。

 

②「横断型」

 事業部門、IT部門、リスク管理部門で組織横断でチームを組成します。

 クラウド展開に必要となる役割を各部門が手分けして対応し、主に新規事業を中心に、クラウド化を推進します。このパターンでの成功事例がとりわけ多く聞こえてくるのは、やはり事業部門やIT部門など既存の枠組みを超えて、全社課題として捉え推進していくことが、ひとつの解なのかもしれません。

 

③「情シス(IT部門)中心型」

 IT部門の配下もしくはIT子会社にチームを組成します。

 クラウド人材の育成、セキュリティやリスク管理、クラウドのアーキテクチャ設計に重きを置いてクラウド化を推進します。とくに日本では、③のIT中心型でCCoEを組成している事例がもっとも多いのが現状になりますが、IT中心型でDXとそのためのクラウドの利活用の推進に成功しているケースが少ないのも実態になります。IT中心型として成功しないケースのパターンとしては、事業部門の思いをくみ取れない、従来のITの制約から脱却できない、どうしても運用重視で守り偏重となりがちとなります。

 

「経営との関係性」

 CCoEの体制に関連して、CCoEの活動を維持するためにも、経営陣が果たすべき役割や責任を明確にすると同時に、経営陣がクラウドの利活用に関する役割や責任を果たすことも重要となります。そのために、海外などでは、クラウド・エグゼクティブ委員会のような会議体を設置して、CIO(最高情報責任者)、CDO(最高デジタル責任者)、CTO(最高テクノロジー責任者)、CISO(最高情報セキュリティ責任者)といった関係する執行責任役職者に加えCCoEの推進リーダーや関連する事業部門のリーダーなどが参加し、クラウドの戦略と目標について計画とその成熟度のモニタリングを行い、現在推進中のクラウド関連プロジェクトについて進捗状況や課題を確認する事例も多くあります。

 

「SIerとの関係性」

 日本ではクラウド人材が不足しているため、CCoEの体制にうまく外部のコンサルや外部のSIerを関与させていかなくてはなりません。その一方で、既存のSIerが最大の抵抗勢力になり得るケースがあります。

既存のSIerが抵抗勢力になり得るパターンとして、既存のSIerが運用保守のビジネス領域を守ろうとしてクラウドに行けないケース、もう一つは、自分たちの戦略のクラウドが既存のSIerの推奨するクラウドに合致していないケースがあり、こういったSIerからは脱却を図らなくてはならない場合もあります。

既存サービスのビジネスロジックやシステムの状況を自分たちが把握しておらず、運用保守もすべてSIer頼みのケースも多く、取り組みは簡単ではありませんが、CCoEは、SIerありきで成り立ってきた日本のシステム導入、運用保守、そして、IT投資の大部分が運用保守に占められている現状の構造変革を、SIerと協働して変革する役割も担っています。

 

既存のSIerの協力を得られない場合は、段階的に調整をしていくことで、脱却を図っていくアプローチが有効です。ただしその場合も、協力を得られないSIerから直ちに脱却するのではなく、長い付き合いの中で、既存ビジネスが分かっているSIerと協調するほうが話が早いケースが多々あります。

過去の信頼関係はビジネスパートナーとしてかなり重要で、どのような投資をして歩み寄れば企業とSierが一緒に成長できるか、中期的なクラウド戦略にもとづいて双方の経営レベルで対話する機会が必要と考えます。

また、企業がロードマップにもとづいて、SIerのチャレンジする領域を取捨選択をして定めてあげるなどの取り組みも必要だと思います。

 

クラウドのメリットの1つとして、アジャイルのアプローチで進めることができることです。PoCを実施し、実現可能性を検証し、影響の少ない部分からプロトタイプの運用を開始し、クラウドのメリットである伸縮性を最大限に活用して、本番サービスにアップグレードしていきます。これを繰り返して、協力を得られない既存のSIerから脱却し、新たなSIerと協働することで新しいシステムを構築していくと同時に、組織のアジリティを高めることが可能となります。

 

成長したCCoEが果たしていく役割

 

 まず、経営陣が果たすべき役割や責任を明確にすると同時に、経営陣がクラウドの利活用に関する役割や責任を果たすことがスタートです。

 そのうえで、CCoEは、クラウドの戦略と目標にもとづいて、体制とファンクションと責任範囲を明確にし、クラウドの利活用を推進する体制上、責任範囲と権限に過不足がないか、あるいは特定の人物に過度に責任が集約していないか等、適時に調整を行いながら、クラウドの利活用の戦略とその実行をコントロールしあるべき方向に導くガバナンスを組織の能力に落とし込みます。

 

 

 

 また、クラウドの利活用の推進にはメリットがある一方で、クラウド特有のリスクも伴います。しかし、リスク対策に充てられる予算・人的リソースなどの資源も限られますので、リスクと資源をどのように配置したうえで目的を達成するのか、リスク対策の適切性をどのように検証するのかなど、リスクベースアプローチによって、リスク管理に取り組むことで、クラウドの利活用の推進を図っていくことが、クラウドの戦略と目標にもとづいて利活用の推進をするためには極めて重要になると考えます。

 

 そして、CCoEは、クラウドに関する技術や最新動向を収集、蓄積し、人材マネジメント、コストマネジメントを行うと同時に、関連技術および組織がクラウドを安心安全に使うためのセキュリティの検証を行いベストプラクティスに反映し、クラウドの利活用者である事業部門とIT部門にたいし、専門的知見・技術的知見からワンストップでサポートを提供するなど、中核機能の役割を担っています。

 こういったクラウドの利活用の推進に必要な役割をCCoEが担い、クラウドの利活用者との間での円滑なコミュニケーションの促進を図ることで、ケイパビリティやナレッジを高めるという期待が出来ます。

 尚、戦略とガバナンスとリスク管理、人材マネジメント、コストマネジメント、アーキテクチャ、セキュリティといったCCoEのファンクションとして必要な対応についてイメージと感覚を持っていただく参考として、こちらにチェックリストを用意しました。ぜひお役立てください。

必ずしも、これらのすべてがファンクションとして過不足がないというものでもなければ、適切であるというものでもなく、CCoEは、クラウドの戦略と目標、そして組織のおかれている環境や状況にあわせてファンクションを検討し、クラウドの利活用の推進を支援するものであることをご理解頂けたら幸いです。

 

最後までお読みいただき、有難うございました。今回はここまでと致します。

Before CCoE、そしてその生い立ちのパターンから、役割についてお話させていただきました。

次回は連載最後、CCoEの効果とAfter CCoEについてお話させていただきます。

 

Jagu’e’r CCoE研究分科会
饒村吉晴(PwCあらた有限責任監査法人) 

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