CCoE 連載 Vol. 8 CCoEのこれから

CCoEを紐解いていく連載シリーズもとうとう最終回です!

第8回目(最終回)となります今回も、引き続きPwCの饒村(じょうむら)さんに解説いただきます。

 

====================================

 

CCoEがワークしていることの効果

 

 PwCの饒村です。前回からの続きです。

今回は、CCoEがうまくワークし始めた段階で「で?何が良くなったの?」と社内外に説明していくためのメソッドをお話致します。

クラウドの利活用とその組織運営を進めていくうえで、コストとビジネスの面で見込まれる効果は、重要な検討事項となります。コストで見込める効果に関しては、遠山さんの CCoE 連載で「過去にIT業界で大きなトレンドとなったものはシンプルにコスト削減効果が期待できるものと考えることもできます。」と述べられているように、とくに既存システムをもつ企業においては、クラウドの利活用の可否の判断の重要なメトリックとなります。

 主にオンプレミスで構成される既存システムにおける、

→ソフトウェア、ハードウェア、カスタマイズ費用、運用費用、トレーニング費用、人件費

 にたいして、クラウドの

→従量課金費用、移行および導入費用、トレーニング費用、人件費

を比較します。

クラウドで見込まれるコスト効果は多岐にわたります。

サーバー調達のコストの抑制、サービスの成長やリクエスト増加への柔軟なコストコントロール、開発やテスト環境構築時のコスト抑制、バックアップ、セキュリティ対策などふくめたシステム運用の人的リソースの抑制などが挙げられます。

 

コスト効果に並び、ビジネスで見込める効果は、経営陣にとっては最も大きな関心事になります。

 

海外では、必ずしもコスト削減の効果だけを期待しているわけではなく、スピード、機能性、アジリティの高さにメリットを感じて、短時間で市場にサービスを投入していくことができる技術として、クラウドの利活用を推進しています。

そして、こういったクラウドの利活用によるコスト、ビジネスの面で見込まれる効果を、経営陣や組織に正しく説明していくことが、CCoEの役割でもあります。

そのためには、クラウドの利活用の予算とコストの管理や、クラウドの利活用の結果として投資対効果を測定する必要があります。

クラウドの利活用の予算とコストの管理においては、従来の予算とコストの管理の考え方にくわえて、必要な管理が求められます。これは、とくに当局も注視しているポイントになります。クラウドの利活用により、ビジネスと一体となったスピードとアジリティが高まっていることで、それに関連する予算とコストもアジャイルに軌道修正されていく可能性が高くなっています。

従来はビジネス戦略にもとづいたビジネスの予算を確定し、そのビジネスの実現に必要なIT予算をIT計画にもとづいて確保するのが一般的でした。また確保したIT予算も比較的に変動のないIT計画とウォーターフォール型によるITプロジェクトで管理されていましたので、ビジネス予算とIT予算を分けて管理するのが一般的でした。

しかしながら、DXやそのためのクラウド利活用の推進においては、ビジネスのアジリティに即したIT予算の組み方やビジネスのポートフォリオとITのポートフォリオを紐づけて一体としてコストを管理する必要がでてきており、CCoEがその設計を担うケースも見られるようになってきました。

 

【After CCoE】 => CCoEのその先に

 

 前回まで述べてきたようなクラウド推進とその組織やファンクションとしてのCCoEの設置と運営が軌道にのった後も、CCoEは中核機能として最新動向を収集し、ケイパビリティやナレッジを高め、継続的に役割を担っていかなければなりません。

 

 特に海外でクラウド推進に成功した機関や企業は、クラウドネイティブ、マルチクラウド、イグジットプランの検討といった取り組みを行っています。

 

 よくクラウドファーストとクラウドネイティブという言葉が混同されることがありますが、クラウドファーストは、システムを構築する際、クラウドを利活用することを優先して検討すること、クラウドネイティブはクラウドの利点を最大限に活用した、技術と設計思想でクラウドを最適化することで、DXやビジネスのアジリティに対応し、組織のビジネスサイクルを加速することです。

 

 既存のシステムを既存の技術やアーキテクチャを温存したままでクラウドに移行するのは、あくまでITのスピードやスケーラビリティやコストのアドバンテージを得るだけで、本当のビジネスにおけるスピード、スケーラビリティ、コストのアドバンテージを得ることはできません。DXに必要なのは、「組織のビジネスサイクルを加速すること」です。

 

 

 海外の当局では、企業のクラウドトランスフォーメーションのロードマップを評価するうえで、開発と運用のシームレスな連携をめざすDevOpsや、開発とテストそしてデプロイを自動化するCI/CDを検討し、クラウドネイティブによって中期的なクラウド戦略を描けているかを評価するケースもあります。

 

 次に、すぐれた技術や適材適所におけるクラウドの利活用のため、そしてベンダーロックインの回避のためにマルチクラウドを検討する必要性もでてきますが、それぞれのクラウドの機能性やセキュリティやコストの比較を十分に行うことはもとより、マルチクラウドの利活用の推進においては、プライマリクラウドの利活用の推進の基礎固めをCCoEが行ったうえで進めていくことが有効です。

 また、ベンダーロックインの回避だけでなく、クラウドサービスの終了、クラウド利用料金の上昇、テクノロジーの依存、新規テクノロジー選択、当局によるクラウドサービスの利用制限(法令・規制の変化)などにもそなえて、重要なシステムについては、コンテナベースで開発を行い、異なるクラウド事業者への移行性を高めるアプローチや、クラウドの利活用の推進を組織が一丸となって進んでいる時こそ人は盲目になりやすいため、ブレーキの機能として、リスク分析とイグジットプランを考えておく必要があります。

 

 

 そして、必ずしもクラウドが万能ということではなく、その手軽さやその高い機能性を生み出す変化の多いサービスは、使い方を誤ったり、知識が不足しているとセキュリティの欠如を招いたり、ビジネスに重大な悪影響をもたらすインシデントを発生させるおそれもあります。クラウドの利活用はしっかりとしたガバナンスのもと十分な検討を行い、取り組んでいくことが重要です。

 

 最後に、クラウドの推進を行うのは人であり、外部のSIerもふくめたクラウド人材の適切な育成と活用がクラウド利活用の推進の成否の鍵となります。

CCoEを中核機能に、クラウド活用に関する成熟度のモニタリングを行い、社内人材の経験と知見を積み重ねつつ、DX推進へチャレンジいただければと思います。

 

 

Jagu’e’r CCoE研究分科会
饒村吉晴(PwCあらた有限責任監査法人) 

=====================================

 

分科会リーダーの黒須です。

全8回に渡る連載、いかがでしたでしょうか?

一度、このCCoEベスト・プラクティスシリーズ連載は終了となります。

今後、我々の分科会は引き続き、各メディアや有識者、実践者の方々と協業し、CCoEについての発信をおこなっていく予定です。

また、CCoE推進でお悩みの際は、お気軽にCCoE研究分科会のMeetUpへご参画ください。

ぜひCCoEのこれからの活動に、ご期待いただけますと幸いです。

最後までお読み頂いた皆さま、長い連載にお付き合いいただき、有難うございました。

最新ポスト