活動報告: ヘルスケア分科会 第9回イベントレポート

皆さま、こんにちは!ヘルスケア分科会です。
オンサイトで開催した10/18 第9回のMeetupの内容紹介記事となります。

今回はAI/ML分科会とコラボし、Geminiを活用したヘルスケア生成AIアイデアソンイベントを開催しました!

まず、ヘルスケア分科会運営メンバーから、現在のヘルスケア・ライフサイエンス領域を取り巻く現状についてのLTをしていただき、それを受けて参加者の皆さまでのヘルスケアxAIアイデアソンを実施と

それでは、最後までご覧ください!

ヘルスケア分科会運営メンバーによる講演とパネルディスカッション

ライフサイエンス&ヘルスケア領域のステークホルダー概況

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
長尾 剛司様

モノ(医薬品など)を中心とした製薬、流通、医療、患者のエコシステム全体を俯瞰し、製薬企業における営業活動の変遷や、顧客セグメント毎のマルチチャネル・マーケティング戦略の重要性、Webマーケティング活用の現状と課題などを解説いただきました。

マルチチャネルマーケティングの必要性

医療関係者への情報提供は、従来のMRによる対面訪問に加え、Web講演会や動画コンテンツ配信など、オンライン・オフラインを組み合わせたマルチチャネル化が必須となっています。医師一人ひとりのニーズや行動特性に合わせた最適な情報提供が求められており、データに基づいた顧客セグメンテーションとパーソナライズドマーケティングの重要性が強調されていました。

医薬品と一般消費財の認知モデルの違い

医薬品は情報非対称性の高い商材であり、医師や薬剤師といった専門家が重要なゲートキーパーとしての役割を担っています。そのため、製薬企業は彼らとの良好な関係構築が不可欠であり、質の高い情報提供を通じて信頼関係を築く努力が重要だと感じました。

ヘルスケア(患者を中心とした)バリューチェーン

ヒト(患者を中心とした)バリューチェーンでは、川上から川下のような医薬品を中心としたライフサイエンスのバリューチェーンとは異なり、病院、薬局、支払者、自治体など循環型のバリューチェーンになる。そのため、中心にモノかヒトのどちらを据えるかで、ビジネスの視点が変わってくることが重要であることが、今後の生成AIを社会実装していく際、考慮しなければならないと実感しました。

今後の展望

ヘルスケアデータの活用は、製薬企業のビジネスモデル変革に大きなインパクトを与えると考えられます。AIや機械学習を活用した創薬研究の加速、個別化医療の実現、そして患者一人ひとりに最適化された医療サービスの提供など、データ活用の可能性は無限に広がっています。

今回の講演を通じて、ヘルスケア業界におけるデータ活用の重要性と今後の可能性を改めて認識することができました。今後、更なるデータ利活用を推進し、患者中心の医療の実現に貢献していく必要があると感じています。

医療分野における生成AI利活用の事例

PeopleMedia, Inc.
硴﨑 裕晃様

ヘルスケア領域における生成AIの活用事例、特に米国の現状を中心にご講演いただきました。海外の具体的なサービス紹介に加え、日本における動向、そして今後の展望についても示唆に富んだ内容でした。

米国における生成AIヘルスケアサービスの隆盛

硴﨑様はまず、米国で既に多数展開されているヘルスケア領域の生成AIサービスを紹介しました。これらのサービスは主に、患者のエンゲージメント向上とバックオフィス業務の効率化を目的としており、フロントオフィスとバックオフィス両面で活用が進んでいる点が特徴です。

フロントオフィスでは、以下のような領域で生成AIが活用されています。

患者エンゲージメント: Abridge, Anthena, Notable, avon 等

事前相談の情報検索、患者の受付、相談後のケア順守を支援
非構造化データへのアクセス簡素化、適切な医療提供者の探索支援
慢性疾患治療における服薬状況のモニタリング、フォローアップ等の自動化によるケア順守改善

ドキュメンテーション: Ambience, DeepScribe, Abridge 等

医師と患者の会話の電子カルテへの転記、コーディング作業の自動化
医療専門職の負担軽減、バーンアウト率低減に貢献
複数言語対応

ケアの意思決定支援: Atropos Health, Glass, Real Chemistry 等
臨床判断支援: 複雑な医療情報や研究結果の整理、検索、統合

バックオフィスでは、米国の医療制度特有の課題解決に生成AIが活用されています。

事前承認: Co:Helm, Latent, Tandem 等

保険会社からの承認取得プロセスの自動化
承認フォーム作成の自動化、却下された請求への対応支援

コーディング: SmarterDx, Regard, Nym 等

診断および処置への適切なコード割り当ての自動化
保険請求業務の効率化、収益向上に貢献

収益サイクル管理: Akasa, Codametrix, Athelas 等

請求処理、支払い状況追跡、未払い金回収等の自動化

6つの領域で進む先行事例を、実際に企業が公開しているデモ動画などを交えてご紹介いただきました。

まとめ

アメリカでは、様々な用途で生成AIを活用した製品が次々と登場し、市場を賑わせており、医療分野においても、臨床現場や製薬企業への導入事例が見られ、AI技術の活用は広がりを見せているということです。一方で、プロダクトマネージャーの視点からは、生成AIを利用した製品の差別化が難しいという課題があります。多くの製品が似たような機能を提供しているため、市場で競争優位性を築くためには、独自の差別化戦略が不可欠だという難しさがあります。
これらの課題を解決するためには、プロダクトマネージャーは市場動向や競合製品の分析、顧客ニーズの把握、技術トレンドの理解など、多角的な視点を持つことが重要で、また、開発チームやマーケティングチームと緊密に連携し、市場で受け入れられる製品を開発していく必要があるということでした。

薬局業務の概要と課題

PharmaX
尾崎 皓一様

薬局業務の現状と課題、そして生成AIの活用事例についてご講演いただきました。薬局業務を取り巻く環境変化を的確に捉え、今後の展望を示唆に富んだ内容でした。

薬局業務の概要と課題:対物業務から対人業務へのシフト

薬局は、OTC医薬品から処方箋医薬品まで幅広く取り扱う、患者にとって身近な医療機関です。その主な業務は医師が発行した処方箋に基づいて薬を調剤することですが、処方箋の確認、患者への服薬指導、アフターフォローまで多岐にわたります。近年ではオンライン診療やオンライン服薬指導の普及により、薬局業務にも変化が求められています。

尾崎様は、2015年に厚生労働省が公表した「患者のための薬局ビジョン」に基づき、薬局業務は「対物」中心から「対人」中心へとシフトしていくべきだと説明しました。しかし現状では、多くの薬局薬剤師が膨大な書類作業や医薬品の管理といった対物業務に追われており、患者と向き合う時間が十分に確保できていません。

実際、8割以上の薬局が患者へのアフターケアや健康相談を十分に行えていないという調査結果も示されました。

薬局を取り巻く環境変化への対応

薬局業務を取り巻く環境変化として、下記の6つのポイントが挙げられました。

  1. オンライン診療: 電話やオンラインでの診療が可能になったことで、患者の利便性が向上。
  2. オンライン服薬指導: 電話やオンラインでの服薬指導が可能になり、患者の負担軽減に貢献。
  3. リフィル処方箋: 1枚の処方箋で、診察なしで上限範囲内の薬の処方が可能になり、患者は処方箋受領のための通院負担が軽減。
  4. リモート薬剤師: 薬剤師の在宅勤務が可能になり、より柔軟な働き方が実現。
  5. 電子処方箋: 紙の処方箋の電子化により、業務効率化、情報共有の円滑化に貢献。
  6. 調剤の外部委託: 対物業務の集約化により、対人業務に集中できる環境が整備される可能性。

これらの変化は、薬局のデジタル化と薬剤師の働き方改革を推進する重要な要素となっています。

 

生成AIによる薬歴自動生成の可能性

尾崎様は、生成AIを活用した薬歴の自動生成に取り組んでいる事例を紹介しました。薬歴は、患者が服用した薬の情報や副作用、アレルギーなどの情報を記録したもので、薬剤師が適切な服薬指導を行う上で非常に重要です。しかし、薬歴入力は薬剤師にとって大きな負担となっており、業務効率化が課題となっていました。

そこで、生成AIを用いて、処方箋情報や患者との服薬指導の音声データから薬歴を自動生成するシステムを開発。このシステムは、以下の3つのステップで実現されます。

  1. 処方せんから医薬品情報を抽出:OCRなどで処方せんの画像やPDFからテキストデータを抽出し、JSON形式に構造化。
  2. 服薬指導の音声データをテキスト化:音声を録音し、文字起こし。必要に応じて話者分離も実施。
  3. 生成AIによる薬歴生成:抽出した処方情報と服薬指導内容のテキストをもとに、生成AIが薬歴を自動生成。

このシステムによって、薬剤師の業務負担軽減と薬歴入力の精度向上が期待されます。

今後の展望

生成AI技術は、薬局業務の効率化に大きく貢献する可能性を秘めています。薬歴入力だけでなく、服薬指導内容の自動要約や患者への個別対応支援など、様々な応用が考えられます。今後の更なる技術開発によって、薬剤師が患者一人ひとりに寄り添った丁寧な対応を提供できる環境が整備されることが期待されます。

QA & ディスカッション

ディスカッションでは、参加者の方々から活発な意見交換が行われました。 「生成AIを医療分野で活用する際にどのような課題があるか」という質問に対しては、医療データのセキュリティやプライバシー保護、AIの判断根拠の説明責任、医療従事者によるAIの適切な活用など、様々な課題が挙げられました。

「AIを導入する際のハードル」については、医療従事者のITリテラシーの向上、AIシステム導入コスト、データの標準化、法規制など、多くの課題があることが指摘されました。

参加者でのアイデアソン

ヘルスケア分科会運営の識者3名の講演を経て、当日参加者の皆さまでアイデアソンを実施しました。

本アイデアソンには講演いただいたヘルスケア分科会運営の3名に加えて、

まずは全体で、ホワイトボードでのブレーンストーミングを実施。
ここでは、実務でプロダクトオーナーをされている硴﨑さんのリードが光りました。

 

ブレーンストーミングで出たアイデアから、興味領域ごとにグループに別れ、アイデアを掘り下げていくディスカッション。各チーム、普段の経験や業務の知見なども交えて大変盛り上がっておりました。

そして、発表。

皆さん非常に実践的なアイデアを創出されていました。
一例として

  • 多様なカルテ・医療情報の自動構造化
  • 個人が診療要否の判断の参考にできるAIスクリーニング
  • 診察前に患者さんの説明を整理してくれるAIアシスタント

などが提案されました。

会の後の懇親会でもディスカッションが続き、参加者の皆さんが迫るAI時代のヘルスケアについて考える良い機会になりました。

所感・まとめ

ということで第9回 Meetupのイベントレポートでした。

ヘルスケア・ライフサイエンスにおける大きな枠組みと、現状の課題、そして今迫る未来の形などヘルスケアとAIについて広く把握できる講演でインプットをし、そこから自分たちで未来を考えるアイデアソンでアウトプット、と非常に盛りだくさんな内容となっておりました。

引き続きヘルスケア分科会では、有益な情報共有や双方向の学びにつながる活動や企画を続けていきます!
この記事を読んでご興味を持たれた方は是非 Jagu’e’rへの会員申し込みヘルスケア分科会へ申し込み をお願いします!

次回予告

次回第10回のMeet Upは2025年2月中旬頃の開催を予定しており、2024年の振り返りや3テーマ程度のLTを実施する予定です!
決定次第ご案内しますので、是非ご参加お待ちしております!

Written by 藤森(ヘルスケア分科会)
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