CCoE 連載 Vol. 6 CCoEのこれまでとこれから

CCoEを紐解いていく連載シリーズ第6回目は、PwCの饒村(じょうむら)吉晴さんに解説いただきます。

 

クラウドトランスフォーメーションとは?

 

PwCの饒村です。

 私自身は主に、政府機関、金融機関といった信頼性の求められる領域を中心に、クラウドのガバナンスや推進の支援に従事しております。

株式会社 野村総合研究所の遠山さんの連載の冒頭でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)についての説明がありましたように、あらゆる産業でDX、イノベーションの推進、そしてワークスタイル変革のために、クラウドの利活用が進んでいます。

株式会社 NTTデータの伊藤さんの連載では、クラウドの利活用の推進のために、CCoEの必要性と企業における実態について、成功例の紹介もありましたが、ギャップと課題についても浮き彫りになっていました。

 社会インフラやビジネスも、従来の直線的なバリューチェーン型から、デジタルの活用による(業界の垣根を超えた)クロスインダストリー、(国境を超えた)クロスボーダーのモデルへと変容しています。

日本のあらゆる機関や企業がDXを推進し、ビジネスを持続的に成長させていくためには、デジタル時代における変革と信頼の構築が不可欠であり、同時にその仕組みを支えるクラウドの利活用が急速に拡大しつつあります。

 こうした状況下で、クラウドの利活用においては、単なるITのトランスフォーメーションにとどまらないDXのためのクラウドの推進、まさにクラウドトランスフォーメーションにも変革が求められており、その組織やファンクションとしてのCCoE(Cloud Center of Excellence)のベストプラクティスについて、私からは、日本よりもクラウドの推進において先行している海外、そして経営の視点も織り交ぜながら解説したいと思います。

 最初にお伝えしたいことは、

クラウドトランスフォーメーションとは、ビジネスの変革そのもの

 ということです。

そして、いまだに存在するクラウドが支持されない、「必要がない、向かない」「セキュリティへの不安」「既存システムの改修コストが大きい」「人材の不足」などの理由は関係なく、重要なことは、それが今ここにあり、ビジネスの変革に大きな価値を提供しているということです。

 

(振り返る)クラウド・・・とは?

 そもそも、クラウドとは、リソースやサービスをネットワーク経由で、利用するモデルです。

 コンピューティングリソースをネットワークで提供するクラウドコンピューティングをはじめ、ITサービスをネットワークで提供するクラウドサービスとして、インフラ系、ストレージ系、コミュニケーション系、アプリ系からSNS系も含まれます。

 スマートフォンやモバイルデバイスの普及により、いつでも、どこからでも、ネットワークに繋ぎ、ITサービスを利用できるデジタル社会が急速に進んでいます。そうしたデジタル化の進展とITサービスの多様化により、そこから生成されるデジタル化された大規模なデータを効率的に収集し、分析し、活用する必要が出てきました。

 いままでは個別のシステムで管理していたデータをネットワーク経由で、一ヶ所に管理するサービスが登場しました。それがクラウドです。クラウドという言葉は、2006年当時、GoogleのCEOのエリック・シュミット氏が、米国のカリフォルニアで開かれた、サーチエンジン戦略カンファレンス(​Search Engine Strategies Conference)のスピーチの中で「データサービスやアーキテクチャはクラウド(雲)のようなサーバー上に存在し、ブラウザの種類も、アクセス手段も、デバイスも関係なくアクセスできる」といった発言をうけて、これ以降、本格的に広まったと言われています。

 こうしたGoogleをはじめとした、米国の巨大IT企業であるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に加え、最近では中国の巨大IT企業のBATH(​Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)などのデジタル化されたデータをコントロールすべく投資を拡大しているプラットフォーマーが、市場における優位性を強めており、同時に、クラウドが進化を遂げてきています。そして、クラウドがもたらすデータとデジタル技術の活用により、コンシューマライゼーションが発生し、従来の企業の即時性・利便性が低く画一的なサービスに不満を持ち、即時性・利便性が高くエンドユーザーに焦点を合わせたサービスが拡大し、各業界に大きなインパクトを与えています。

 日本では米中のようなプラットフォーマーは存在しないため、日本におけるクラウドの普及は遅れをとりながらも、その普及の歴史としては、とくに2011年の3.11の東日本大震災が大きな転換期だったと思います。

 地震発生の数時間後に災害対応のサービスがクラウドによって立ち上がり、数日後には多数の被災者向けの義援金、救援支援、情報支援などのサービスがクラウドによって本格始動していきました。

 これらを可能にしたクラウドのスピード、スケーラビリティ、そしてコストメリットなどの驚異的な力が一部の人に認識され、先進的な企業でのクラウドの普及につながっていき、最近では、ビジネスのアジリティを高め、同時にビジネスの変革を実現するためのクラウドの利活用をする企業が増えてきています。

 そして、こういった企業においては、それを推進する組織やファンクションとして、CCoEを設置ないし構築して、積極的なクラウドの利活用と、また適切なガバナンスも確保して、バランスの取れたクラウドの推進を実現している企業も出てきています。

 

(ギモンに応える)①

 なぜ海外企業はクラウドの利活用で先行しているのか?

 多くのプラットフォーマーを生み出している米国の政府は、2010年に「クラウドファースト」のポリシーを発表し、クラウドの推進と制度の対応を図ると同時に、民間の企業との連携やイノベーションの促進も図っています。日本では政府から、米国の「クラウドファースト」にあたる「クラウド・バイ・デフォルト原則」の方針が発表されたのは2017年で、一部の大手の民間企業で「クラウドファースト」を宣言する企業が現れたのもそのあたりです。

 クラウドの推進においては米国とくらべ、日本では7年から10年と、積極的に取り組みを開始しだしているタイミングが遅れています。特に諸外国の中でも米国においてクラウドの利活用が進んだ理由は、オバマ政権下(2009年 – 2017年)に、先にあげたプラットフォーマーなどとも連携し、技術研究開発への投資とIT政策を積極的に推進することで、官民ともにDXの推進とともに、クラウドの利活用が推進されました。こういった動きは、米国だけではなく、英国は2011年に「クラウドファースト」のポリシーを発表し、豪州でも2014年に「クラウドファースト」のポリシーを発表し、同様に欧州やアジアの海外の政府でも同種の発表がなされ、官民によるクラウドの利活用の加速につながっています。

 日本は海外と比べると後塵を拝しつつも「クラウド・バイ・デフォルト原則」の方針の発表以降、クラウドの利活用の検討プロセス、調達プロセス、選定プロセス(安全性、効率性、技術革新性、柔軟性、可用性などの観点から正しいクラウドを選定すること)が検討され、そして整備されてきています。

 特に安全性においては、ISMAP(Information system Security Management and Assessment Program:通称、イスマップ)というクラウドサービスの安全性評価の審査・認定プログラムが運用を開始しだしており、このプログラムで認定をうけたクラウドサービスが安全なクラウドサービスとして登録されています。(https://www.ipa.go.jp/security/ISMAP/cslist.html)

 ISMAPは、政府情報システムの調達のみならず、将来的には重要産業分野(*)等をはじめとする民間においても活用を推奨していくことが検討されています。

*:情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス(地方公共団体を含む)、医療、水道、物流、化学、クレジット及び石油

 米国でもFedRAMP(Federal Risk and Authorization Management Program:通称、フェドランプ)という同様の審査・認定プログラムを2011年から開始しており、米国の政府機関のみならず、米国の上場企業の半数以上が、重要な領域には、ここで認定されているクラウドサービスのみを利用するといった動きになっています。責任分界でいうところの、クラウド事業者の責任領域におけるセキュリティへの不安は、クラウドの利活用の大きな障壁になっていましたが、こういった制度が確率されることで、海外同様に、日本においてもクラウドの利活用の推進が加速されるであろうインパクトのある制度になります。

 ここ数年、よくクラウド関連の記事などで、日本がクラウド後進国、クラウド抵抗国であるという言葉を見かけますが、その原因は、政府主導による積極的な推進が弱かったことが最も大きな要因だと思います。特に日本は、政府主導によるDXやクラウド利活用の推進へのリーダーシップが欠如していたこと、そしてそれは従来の商習慣から脱却できずに変化へ対応できなかったこと、その原因として縦割りの組織でかつ外部、それは官民連携がなされていなかったことが大きな要因となりますが、それに危機感を感じた一部の政府主導者や民間によって、今まさに本格的な政府のDX推進組織が立ち上がり、いよいよ日本の政府もDXとともにクラウドの利活用の推進、そしてそのための官民連携を強力に進めだしているところです。

 一方で日本では、商習慣や社会的なバイアスによってクラウドの導入には障壁があります。それは、SIer(システムインテグレーター)への依存、クラウドIT支出の低さ(独自のカスタマイズされたシステムへの運用・保守費用の支出が高いため)、クラウド人材の不足など考えられることをあげるときりがありませんが、海外においてもクラウドの導入には障壁があったのは事実です。

 ですので、米国をはじめとした日本よりも先行している海外において、クラウドの推進に成功している機関や企業から、クラウドの推進のあり方やCCoEのベストプラクティスを学ぶことは有効なアプローチとなります。実際に、海外のプラクティスから学んでいる日本の機関や企業も少なくはありません。

 

(ギモンに応える)②

 CCoEのベスト・プラクティスで最も重要視すべきことは?

 私自身は、海外においてクラウドの推進に成功している政府機関や金融機関のヒアリングや調査に携わってきた経験がありますが、海外のクラウドの推進に成功している機関や企業の大きな要因として共通することがあります。

 

 それは、クラウドの推進を行うのは人であり、推進者が何よりも重要です。特にクラウド化を使命と捉え、強力なリーダーシップを持つ推進者の存在があることです。この推進者は、推進のための強力な権限、そして周囲を巻き込みマインドをチェンジする熱意と力を持っている必要があります。そしてこの推進者を支えるビジネスとテクノロジーのリエイゾン(組織間の調整役)の存在も重要です。クラウドの推進においては、抵抗勢力や導入障壁が存在するため、ロジカルに説明し調整を行い、クラウド推進を阻む壁をブレークスルーしていく必要があります。

 

 

 

 ビジネスのリエイゾンは、クラウドについての知識が必ずしも十分ではない経営陣や社内の各部門に、クラウドのメリットやリスクを正しく説明し、理解させることです。ビジネス上、クラウドの利活用やクラウドの推進が、組織にどのような効果をもたらすのか、活用しないことでどのような機会損失が想定されうるのか、ITリスクを含めどのようなリスクが伴うのかを、正しく説明し、理解させることが重要な役割となります。

 テクノロジーのリエイゾンは、既存のIT環境に関する知識とクラウドの知識の両方の知識を有し、オンプレミスとクラウドの両方の知見による橋渡しを行います。また、クラウドの利活用により新たに実現できること、新たに考慮すべきことをテクニカルの面で検討します。そして、クラウドの専門知識を持つ数少ない個人の知見やクラウドに関する様々な新しい情報を共有しやすくし、クラウド人材の発掘と育成を図っていく必要があります。

 クラウドを適切に利活用するための推進においては、経営陣や関係する部門が、クラウドを正しく理解し、利活用の可否を判断できるだけの十分かつ分かりやすい情報や知識を提供できる推進者とそれをサポートするビジネスのリエイゾンとテクノロジーのリエイゾンといったプレイヤーの存在が必要不可欠となります。

 

そして、クラウドを広く利活用していく上において、海外のクラウドの推進に成功している機関や企業では、上述したような人材を中核に据えた、組織あるいはチームを組成しており、こうした組織やチームがCCoEであり、重要なファンクションであることをご理解いただけたらと思います。

 

次回はCCoEの構築に必要なこと、そして、体制、役割、効果について解説しつつ、

【Before CCoE】と【After CCoE】について掘り下げてゆきたいと思います。

 

 

 

Jagu’e’r CCoE研究分科会
饒村吉晴(PwCあらた有限責任監査法人) 

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