CCoE 連載 Vol.4 CCoEの成功例と失敗例

CCoEを紐解いていく連載シリーズ第4回目は、引き続き株式会社 NTTデータの伊藤 利樹さんに解説いただきます。

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NTTデータの伊藤です。

前回はクラウド活用におけるCCoEの有効性と初期のCCoEに必要なポイントについて、お話させていただきました。

今回は、私の数々のCCoE支援経験から、具体的なCCoEの成功例・失敗例についてお話させていただきたいと思います。

1.CCoEの成功例

成功したCCoEを私なりに分析すると3つの共通事項があります。

 ①強烈なリーダーシップ(熱意と巻き込み力)をもつ中心人物がいる。

 ②経営層の後ろ盾がある。

 ③内製化とアウトソースの使い分けポリシーがしっかり定まっている。

 これらを満たし、私が見てきた中でも特筆すべきCCoEの例を紹介しましょう。従業員数約1万人規模、いわゆる大企業のCCoEの例です。

私が支援開始した当初の状況は、クラウド利用は当時ほぼゼロ、シャドーITが存在しており取り扱いに苦慮、という状態でした。そこから、凄まじいスピードでクラウド利用ルール・体制・インフラを整備し、商用システムを複数ローンチし、コロナ禍によるリモートワーク需要からほぼ全ユーザ用にクラウド上にVDIを構築するまでに至りました。ここに至るまで要した時間は1年弱というスピード感のある取り組みでした。社名はお出しできませんが、かなり堅実な業界の大企業です。この業界で、DXがこんなにクイックに進んでいる国内の例は、私個人では未だ見たことがありません。

 

①強烈なリーダーシップ(熱意と巻き込み力)

 このCCoEの一番の特徴はリーダーの熱意とリーダーシップです。

 リーダーはビジネス部門の方でビジネスの高度化、いわゆるDXを目的としています。DXにクラウドが必要なので、自分たちで利用できるようにと推進されています。そして素晴らしいことに自分たちだけが使えればいい、というわけではなく、今後クラウドを利用する方々が困らないように、全体最適の目線で社内ルールや体制を整備して進められておりました。このリーダーは転職者で、CCoE立ち上げ時点で在職半年程度でした。社内の誰と話をしていいのか分からないと笑いながらステークホルダーを探し出して、クラウドガバナンスを検討する会議に連れてきてらっしゃったのを思い出します。たしかに自分が分からなくても、周囲にいる職歴の長い方ならばステークホルダーも分かるでしょうし、もし分からなくても所詮は社内の話です。聞き込みを続ければ辿りつけます。やる気さえあればステークホルダーは連れてこれるのです。そして連れてきたステークホルダーを上手に仲間にしていきました。コンサルを雇ってクラウドガバナンスの勉強会を開催して全体のリテラシと意識の底上げを図ることもあれば、経営層から各部門長に推進を検討するよう指示を促すなど、上下様々な角度で働きかけをして仲間にしていきました。 

 彼はビジネス部門の所属でしたが、情報システム部門やセキュリティ部門の論理、立場を深く理解していました。ビジネス部門目線だとセキュリティは面倒な厄介ごとなのですが、セキュリティの大切さ、セキュリティ部門の立場を理解し、利便性とセキュリティのバランスを意識したルール作りが推進されていきました。

 どこかの部門目線に偏重することなく、会社のためにどうあるべきかを考えて進められており、そのリーダー像を見た周囲も巻き込み、CCoE全員が全社最適を目指していくようになりました。これら一連の姿勢が周囲の協力を得るために必要なのだと思います。

②経営層の後ろ盾

  このリーダーはステークホルダーを巻き込んでいく際に、経営層を巻き込んでいたのも印象的でした。DX・クラウド化の価値を経営層にプレゼンし、予算と権限を確保した上でCCoEを立上げていました。これによりステークホルダーの巻き込みがよりスムーズに進みました。

 前回お話したとおり、ステークホルダーは必ずしも協力的ではありません。そのような時にクラウド利用が経営でコミットされているということが、彼らが ”協力的に” 動くための大きな原動力となるのです。

 

③内製とアウトソースの使い分け

 このCCoEでは、開発する案件において内製すべきもの、アウトソースすべきものを明確に区別されていました。ビジネス要素があるものは他社との差別化要因であり、競争の源泉足りえるので基本的に内製化する。ビジネス要素がない共通機能で特に難易度が高いものは対応するリソースがないので積極的にアウトソースする。といった具合です。

 海外で内製化が流行っているようだから、なんでもかんでも内製化するんだ!クラウドのノウハウを溜めるんだ!という方々も一定数いらっしゃるので、明確に定義し区別していくというのも大変な作業と調整が必要でした。

彼らの戦略を絵にしてみると、アウトソースの領域が少なくSIerとしては悲しいのですが、このように内製・アウトソース戦略が明確かつロジカルであり、社内リソースを適切に活用している点に非常に好感が持てます。このような姿勢が、クラウド利用成功に寄与していると考えられます。

2.CCoEの失敗例

さて、今度は上手くいっていないCCoEの特徴を見てみましょう。上手くいっているCCoEの裏返しなのですが、下記3点が上げられます。

 ①リーダーにDXに至るまでの熱意がない。

 ②誰も遊ばない遊園地の案内係に終始している。

 ③全てにおいて内製化が是だと考えている。

少し具体例を見てみましょう。

①リーダーにDXの熱意無し

立ち上がってからしばらく経過したCCoEのリーダーから「CCoEってそもそも何を目指すのでしょうか?」と質問されることがあります。「他社の活動内容などをご参考にしていただき、その目指すところは一致するので聞いてみてください」と回答しています。このようなCCoEは上手くいっていません。

 リーダーにDXの熱意があれば、目指すべきところと、今手をかけるべきポイントが自ずと分かるはずです。DXを推進しなければならないので、課題は山積みで、どれから手を付けようか?というのが健全な状態です。熱意がない場合、クラウド利用がゴールとなっているため、ルール・体制づくりが済んだら、あとは何すれば良いのだろう?となってしまうのです。

 CCoEに必要な要素は次項で詳しく述べますが、要するにクラウド利用を推進しDXの道筋を示すのがCCoEの役割です。

 

 

②誰も遊ばない遊園地の案内係

これも根本原因は「①リーダーにDXの熱意なし」のなのですが、クラウド利用がゴールなCCoEにありがちなケースです。

 利用者目線のない、セキュリティ偏重の使い勝手が悪いルールでクラウド運営をしているケースがあります。これもまず失敗します。この使い勝手の悪いルールは多数存在し、それについて「誰も遊ばない遊園地を作っているよね」と揶揄されています。少し具体的な様子を説明しましょう。

チェックリストやセキュリティルールをたくさん作り、CCoEは「役所の案内係」のように「その手続きはこの申請書とチェックリストに必要事項を記入し、セキュリティ部門のレビューを受けてください」と案内するだけ。そして渡されたチェックリストの項目は異様に多く、そんなこと聞いてどうするの?というものが大半。これではクラウド活用は進みません。

しかし、一応クラウドは使える状態なので、CCoEの目的は達せられているように感じてしまい、健全な自己否定なく、そのまま放置、というパターンがこのケースの行く先です。

 

③全てにおいて内製化が是

 これも上手くいっているケースの裏返しなのですが、内製化にこだわりすぎた結果、失敗しているケースが散見されます。欧米や先進企業では内製化が進んでいる。クラウドにより内製化がしやすくなった。クラウド×アジャイルで内製化だ!そんなキーワードを盾に全部内製化するんだ!という雰囲気は危険です。成功例で記載したように戦略的に内製化するのはとてもよいことです。差別化要素が強い点やスピードが最重視されるケースは内製化した方がよいでしょう。一方メリハリを付けず、なんでもかんでも内製化しているとすぐリソース不足になります。

よくあるケースとして予防・発見・是正的統制を自前で賄おうとして、クラウドサービスのリスク調査にCCoEの大半のリソースをつぎ込んだ結果、他のワークができなくなりクラウド推進自体が滞るというもの。リリースされるクラウドサービスをタイムリーに全て調査するのは至難の業であり、適切なアウトソースを視野にいれるべきでしょう。そして、この例ではクラウドサービスのリスク調査にリソースをつぎ込んでいますが、内製リソースを費やしてまで獲得すべきノウハウなのでしょうか? しかし、前段で申し上げたとおり、会社全体の雰囲気が「何から何まで内製化」であった場合、このようなケースに陥ってしまう危険性は大いにあるのです。

 この問題の本質は経営層とのコミュニケーションミスです。内製化せよ!と上位から降ってきたのでそれを愚直にやっている。

  極端な話をするとウイルス対策ソフトを内製化する人がいないように、差別化要素がなく買った方が安いものは買えばよいのです。ウイルス対策ソフトを作るのが大変で他に何もできませんでした!と経営層に報告して、よくやりました、とはならないと思います。

 経営層としっかりコミュニケーションを取り意識を合わせること。限りあるリソースを適切に活用することが大切です。

 

 

いかがでしたでしょうか。

今回は、CCoEの成功例と失敗例を見てみましたが、成功の秘訣はやはり強力なリーダーの存在です。リーダーがいれば経営層ともリレーションが維持できますし、リソースも正しく使われるでしょう。こういう話を支援先の企業で申し上げると「うちの会社にそんなスーパーマンはいないから、CCoEなんて無理だよ」と言われることがあります。本当にいないのでしょうか?〇〇部にいない、なら分かりますが、会社全体を見渡してもいない、なんてことがあるのでしょうか?

 DXとはデジタルを利用して、あらゆる顧客体験・従業員体験を変えるものです。デジタル発なのです。会社を変えていくために、その原動力となるCCoEに、ぜひ御社のエースを投入してください。

 

次回は、CCoEを実際に組成してきた経験からその要件について、更に深堀りしていきたいと思います。

最後まで読み進めていただき、有難うございました。

By 伊藤 利樹(株式会社 NTTデータ)

 

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